東京高等裁判所 平成8年(行ケ)105号 判決 1997年3月12日
名古屋市千種区今池3丁目9番21号
脱退原告(被参加人)
株式会社三洋物産内
代表者代表取締役
金沢要求
名古屋市千種区今池三丁目9番21号株式会社三洋物産
参加人
福島征一郎
東京都千代田区霞が関3丁目4番3号
被告(被参加人)
特許庁長官 荒井寿光
指定代理人
紀俊彦
同
八巻惺
同
幸長保次郎
同
小川宗一
主文
特許庁が、平成7年審判第4999号事件について、平成8年3月12日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告(被参加人)の負担とする。
事実及び理由
第1 当事者の求めた判決
1 参加人
主文と同旨
2 被告(被参加人、以下単に「被告」という。)
参加人の請求を棄却する。
訴訟費用は参加人の負担とする。
第2 当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
脱退原告(被参加人)は、平成元年9月4日、昭和60年3月28日出願の昭和60年実用新案登録願第45679号(以下「原出願」という。)からの分割出願として、名称を「パチンコ機の誘導レール」とする考案(以下「本願考案」という。)につき実用新案登録出願をした(実願平1-103822号)が、平成7年1月5日に拒絶査定を受けたので、同年3月9日、これに対する不服の審判の請求をした。
特許庁は、同請求を平成7年審判第4999号事件として審理したうえ、平成8年3月12日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年5月1日、原告に送達された。
2 本件考案の要旨
パチンコ機本体に着脱自在に取り付けられ且つ遊技領域の外側表面に固定される飾り枠を備えた遊技盤の前記遊技領域にパチンコ球を誘導する誘導レールにおいて、該誘導レールを少なくとも中央上部よりもやや通過した位置に設けられる衝止部材までの間前記飾り枠に固着して一体化し、その後、その誘導レールを固着した飾り枠を取着手段によって前記遊技盤の表面に取着したことを特徴とするパチンコ機の誘導レール。
3 審決の理由
審決は、別添審決書写し記載のとおり、本願考案は原出願の明細書及び図面に記載された事項の範囲内を要旨とするものとは認められず、本願は適法な分割出願とは認められないので、その出願日の遡及を認めることができないとし、原出願の願書に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルム(以下、図面を含め「原明細書」又は「引用例1」という。)を本願出願前に頒布された刊行物であるとして引用し、本願考案は引用例1と実公昭55-1883号公報(以下「引用例2」といい、そこに記載された考案を「引用例考案2」という。)に記載されたものに基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるから、実用新案法3条2項の規定により、実用新案登録を受けることができないとした。
4 権利の承継
参加人は、平成8年6月1日、脱退原告から本願考案につき実用新案登録を受ける権利の譲渡を受け、同月4日、同譲渡につき特許庁長官に届け出をし、同月13日、脱退原告が被告を相手に提起していた上記審決に対する審決取消訴訟(当裁判所平成8年(行ケ)第87号審決取消請求事件)に権利承継による参加をした。なお、同事件は、脱退原告の訴訟脱退により終了した。
第3 参加人主張の審決取消事由の要点
審決の理由中、本願考案の要旨、各引用例の記載事項は認めるが、本願考案が原出願の分割出願としては不適法であり出願日の遡及が認められないとし、原明細書(引用例1)を本願出願前に頒布された刊行物であるとして引用した点並びに本願考案と引用例1との相違点の認定及び判断は争う。
審決は、原出願の技術内容を誤認したため、本願考案が原出願の分割出願としては不適法であるとの誤った判断をし、原明細書(引用例1)を本願出願前に頒布された刊行物であるとして引用し(取消事由1)、引用例考案2からの容易推考性の判断を誤り(取消事由2)、その結果、誤った結論に至ったものであるから、違法として取り消されなければならない。
1 取消事由1(分割出願の適法性についての判断の誤り)
審決は、「原出願の図面からみて、・・・『遊技盤を交換すれば、誘導レールも同時に交換されることとなり、・・・打球の斑飛びという問題は生じない』等の本願考案の目的及び作用効果までが自明とすることはできない。したがって、・・・本願考案は、原出願の分割出願とは認められず、本願考案の出願日の遡及は、認めることはできない。」(審決書4頁17行~5頁7行)としているが、誤りである。
本願考案の遊技盤は分離式の遊技盤であり、パチンコ機本体に対して遊技盤を容易に着脱交換できること、また、飾り枠に誘導レールが一体的に固着形成されていること、さらに、この飾り枠が取着手段によって遊技盤に取着されることは、原明細書(甲第4号証)の図面の記載から自明である。
すなわち、原明細書の図面において、パチンコ機本体が記載された第1図と遊技盤が記載された第3図を当業者の視点からみれば、遊技盤は、同図面には図示されていないが十分な強度を有する強固な取付手段により、パチンコ機本体に取り付けられるものであることは自明である。
そして、「遊技盤を交換する」とは、ビスをはずすことなく、誘導レールが固着されている飾り枠と遊技盤とを一体(同時)に交換することであるから、遊技盤を交換すれば誘導レールも同時に交換されることになり、交換後は新たな誘導レールを備えた新たな遊技盤となるので、打球の斑飛びという問題が生じないことも明らかであって、本願考案の目的及び作用効果における「・・・打球の斑飛びという問題を生じない」という点は、原明細書の図面の記載から自明である。
したがって、本願考案は原明細書に記載された範囲内を要旨とするものであり、本願は原出願からの適法な分割出願であるから、原明細書(引用例1)を本願出願前に頒布された刊行物であるとして引用した審決は、失当である。
2 取消事由2(引用例考案2からの容易推考性の判断の誤り)
審決は、「引用例2記載のものも、遊技盤を交換する際には、誘導レールも交換することができ、新たな遊技盤による打球の斑飛びという問題が生じないもの、即ち本願考案と同じ目的を有し且つ同じ作用効果を奏するものといえるから、両者の上記相違点は、当業者が引用例1及び引用例2記載のものから、きわめて容易に考えることができる程度のことといえる。」(審決書6頁3~10行)と判断しているが、誤りである。
引用例考案2は、遊技盤が分離式のパチンコ機であって、遊技盤を着脱交換することができるものではあるが、誘導レールは取付枠に一体的に嵌着固定されており、この取付枠が取着手段によって前面枠に硬く固定されることは、引用例2の記載から明らかである。
すなわち、当業者の視点からみれば、引用例考案2の前面枠は、パチンコ機本体を構成する部材に他ならず、この前面枠に硬く固定された取付枠に対して遊技盤を交換可能にすることにより、分離式パチンコ機が構成されているのである。したがって、前面枠に多数のビス等で硬く固定されている取付枠も、パチンコ機本体側を構成する部材といわなくてはならず、被告主張のように、パチンコ機本体側の部材である取付枠と遊技盤とを同時に交換することはありえない。
このことは、「遊技盤を交換するだけでパチンコ機の表面の態様を一新することができるので分離式パチンコ機において実用的なものとなる」(甲第5号証4欄14~17行)、「取付枠は遊技盤を交換したとしてもそのまま使用することができるので経済的効果も高い」(同4欄25~26行)との記載からも明らかである。
このため、引用例考案2は、遊技盤を交換しても誘導レールは交換されないし、誘導レールは前面枠に取着された取付枠側にそのまま残され継続的に使用されるものである。それ故、引用例考案2の誘導レールは、長年にわたって使用されることとなり、磨耗して汚れが付着したものとなるので、パチンコ球の走行が不安定になって打球の斑飛びが生ずるという欠点を有し、本願考案と同じ目的及び作用効果を奏するものではない。
したがって、本願考案が引用例考案2からきわめて容易に考えられるものということはできない。
第4 被告の反論の要点
1 取消事由1について
原明細書の図面からみて、原出願に係るものが、遊技盤(6)が分離式のパチンコ機であること、誘導レール(1)は、飾り枠(5)に一体的に固着形成されていること、誘導レールを固着した飾り枠を遊技盤の表面にビスにより取着すること(第3図)等は認めうるが、該遊技盤が、パチンコ機本体に対してどのように取り付けられているかについては、不明である。
それ故、原明細書の図面からみて、パチンコ機本体に対して、遊技盤(6)及び飾り枠(5)を交換できること、遊技盤及び飾り枠を交換する場合には、該ビスをはずして行うこと等は自明といえるものの、「遊技盤を交換すれば、誘導レールも同時に交換されることとなり、新たな遊技盤による遊技においても打球の斑飛びという問題は生じない」等の本願明細書に記載された本願考案の目的及び作用効果までが自明とすることはできない。
なぜなら、「遊技盤を交換する」とは、ビスをはずして遊技盤及び誘導レールが固着されている飾り枠を離して、その後遊技盤を交換すると解され、遊技盤と飾り枠とを同時に交換することまでは含まれないから、「遊技盤を交換すれば、誘導レールも同時に交換されることとなり」とはならない。したがって、「新たな遊技盤による遊技においても打球の斑飛びという問題は生じない」等の本願考案の作用効果が奏せられるとすることはできないから、参加人の主張は失当である。
2 取消事由2について
ガイドレールが遊技盤以外の部材に取り付けられている分離式パチンコ機が本願出願前に公知であることは、引用例2の記載からも明らかである。引用例考案2においては、ガイドレールが取付枠に取り付けられており、この取付枠を取着手段によって遊技盤の表面に取着している。
そして、引用例2全体の記載からみて、この遊技盤と取付枠とを同時に交換する際には、ガイドレールも同時に交換されることとなり、新たな遊技盤による打球の斑飛びという問題が生じないものと認められる。
したがって、本願考案は、引用例1記載のもの及び引用例考案2から、当業者がきわめて容易に考案をすることができる程度のものである。
第5 証拠
本件記録中の書証目録の記載を引用する。書証の成立については、いずれも当事者間に争いがない。
第6 当裁判所の判断
1 取消事由1(分割出願の適法性についての判断の誤り)について
本願明細書及び図面(以下、図面を含め「本願明細書」という。甲第2、第3号証)によれば、本願考案は、従来のいわゆる分離式のパチンコ機において遊技盤だけを交換しようとする場合には、誘導レールがそのまま再使用されることになるが、再使用される誘導レールは、多少摩耗しているため、打球の斑飛びが生ずるという問題があったので、この問題点に鑑み、遊技盤を交換する際にも誘導レールを交換することができるとともに、誘導レールの取着作業が簡単であるパチンコ機の誘導レールを提供することを課題とし、その課題を解決するための手段として、誘導レールを少なくとも中央上部よりやや通過した位置に設けられる衝止部材までの間前記飾り枠に固着して一体化し、その後、誘導レールを固着した飾り枠を取着手段によって前記遊技盤の表面に取着したことを特徴とするものであり(甲第2号証明細書1頁26行~2頁9行)、本願考案の要旨に示す構成を採用することにより、「誘導レールを遊技盤に割りピン等で取着する必要もなく、誘導レールの取着作業を極めて簡単に行うことができると共に、遊技盤を交換すれば、誘導レールも同時に交換されることとなり、新たな遊技盤による遊技においても打球の斑飛びという問題が生じないし、飾り枠も汚れのない新品のものを使用できるので、遊技者に新しいパチンコ機であるという印象を与えることができる。また、誘導レールが飾り枠に一体的に固着形成されるので、部品点数を少なくすることができる」(同2頁13~19行、4頁19~25行)という作用効果を奏するものであると認められる。
一方、原明細書(甲第4号証)には、その要旨を「一部又は全部をセラミックスで構成したことを特徴とするパチンコ機の誘導レール」(同号証明細書1頁5~6行)とする考案が記載され、その実施例につき、「第1、第2図は本考案の一実施例を示したものであり、遊技盤(6)に円弧状に形成された誘導レール(1)が取付けられている。」(同3頁15~17行)と記載され、その第2図には、誘導レール1とコーナー飾り2とを遊技盤にビスで固定する態様のものが示されており、次に、「第3図は本考案の他の実施例を示したものであり、一部又は全部をセラミックスで構成した誘導レール(1)をレール部(3)として内側に設け、周辺を遊技盤(6)の外縁に合わせて囲ってコーナー飾り部(4)(飾り模様は省略した)を形成して、枠(5)形状にしたものであり、第2図に示す遊技盤(6)に取付けられるコーナー飾り(2)と誘導レール(1)との一体化を図ったものである。」(同4頁17行~5頁6行)、「また第3図に示す実施例の場合には、パチンコ機の遊技盤に取付けていたコーナー飾りと誘導レールとが一体化して部品点数が少なくなり、取付けを効率よく行うことができる。」(同6頁6~9行)と記載され、本願明細書の図面第1図(甲第3号証)とほぼ同一の図面であると認められる原明細書の図面第3図には、図面では省略されたコーナー飾り部とともに誘導レールを設けた枠5を遊技盤にビスで取り付ける態様が記載されている。すなわち、この原明細書に記載されている実施例の第2図の態様において、誘導レールはコーナー飾り部とともに遊技盤にビスで固定されており、第3図の態様においては、誘導レールとコーナー飾り部とを一体化した枠が遊技盤にビスで固定されており、いずれの態様においても、誘導レールはコーナー飾り部とともに遊技盤に固定されて一体のものとして扱われるものであることが示されていると認められる。
もっとも、原明細書には、遊技盤をパチンコ機本体に対してどのような手段によって取り付けるのかについての記載がないことが認められるが、原明細書に記載されているパチンコ機が分離式のパチンコ機であり、パチンコ機本体に対して遊技盤及び飾り枠を交換できるものであることは被告も認めるところであるから、このような分離式パチンコ機である以上、遊技盤がパチンコ機本体に固定されていなければならないとともに、遊技盤を交換する場合にはパチンコ機本体から簡易に取り外すことが可能でなければならないことは自明ということができ、実公昭58-8292号公報(甲第6号証)、実開昭55-72992号公報(甲第7号証)及び実開昭59-8384号公報(甲第8号証)には、このための取付手段につき、パチンコ機本体に属すると認められる表枠の桟木若しくは取付枠に遊技盤を取り付けるためレバーの回動を利用した締付金具(緊締金具)が示されており、これらによれば、分離式パチンコ機において、遊技盤をパチンコ機本体に取り付け、取り外すために上記のような取付手段を利用することは周知の技術と認められる。
そうすると、原明細書記載の前示第3図の分離式パチンコ機も、パチンコ機本体に交換可能に遊技盤を取り付けるため、上記のような取付手段を備えているものであることは構造上自明であると認められ、この分離式パチンコ機においては、誘導レールを一体的に設けた枠が遊技盤にビスで固定されて一体のものとして扱われるものであることからすれば、上記取付手段により交換可能にパチンコ機本体に取り付けられる遊技盤としては、枠が固定された遊技盤を考えるのが最も自然であるというべきである。これを被告主張のように、誘導レールが固着されている枠を遊技盤からわざわざビスをはずして分離して、その後遊技盤を交換するものしか開示されていないとみることは、きわめて不自然であるといわなければならない。
すなわち、原明細書の記載を上記周知技術に照らして理解すれば、その第3図の分離式パチンコ機においては、遊技盤の交換の際、誘導レールが固着されている枠も遊技盤と一体のものとして遊技盤と一緒に交換される態様が開示されているとみるべきであり、このものにおいては、「遊技盤を交換すれば、誘導レールも同時に交換されることとなり、新たな遊技盤による遊技においても打球の斑飛びという問題は生じない」等の本願明細書に記載された本願考案と同様の作用効果が生ずるものと認められる。
したがって、本願考案は、原明細書に記載された範囲内の事項を考案の要旨とするものであり、本願の分割出願は適法であるから、分割出願による出願日の遡及を認めずに原明細書である引用例1を本願考案に対する公知例として引用した審決は、その前提を誤っており失当というべきである。
取消事由1は理由がある。
2 取消事由2(引用例考案2からの容易推考性の判断の誤り)について
引用例考案2がガイドレール(誘導レール)が遊技盤以外の部材である取付枠に取り付けられている分離式パチンコ機であることは当事者間に争いがない。そして、引用例2(甲第5号証)に示されているパチンコ機の構造によれば、遊技盤を交換する際にガイドレールが嵌着固定されている取付枠を釘、ビスを抜き取ることにより前面枠から取り外すことによって同時に取付枠を交換することがその構造上不可能であるとまではいえないことは、一応被告主張のとおりであるということができる。
しかし、引用例考案2が、遊技盤を交換したときにも、取付枠は交換せずそのまま使用することを意図したものであることは、引用例2(甲第5号証)の「遊技盤を交換するだけでパチンコ機の表面を一新することができるので分離式パチンコ機において実用的なものとなる」(同号証4欄14~17行)、「更に取付枠は遊技盤を交換したとしてもそのまま使用することができるので経済的効果も高い。」(同4欄25~26行)との記載から明らかであり、この記載によれば、引用例考案2が前面枠に多数のビス等で硬く固定されている取付枠を前面枠から分離して、遊技盤と同時に交換することを予定しているものとは認められない。むしろ、その「前面枠1、取付枠3、遊技盤13によつてパチンコ機を組立てるには、載置面9にガイドレール7を嵌着固定し、取付枠3を前面枠1の裏面にあてがつてビス孔5から釘やビスなどを打込み硬く固定する。そして中桟などを介して遊技盤13を取付枠3の載置面9や枠部11の後端縁に接するように固定する。」(同3欄33行~4欄5行)との記載と図面によれば、引用例考案2の分離式パチンコ機においては、前面枠と取付枠がビス等で硬く固定されて一体となりパチンコ機本体を構成するものと理解され、遊技盤はこれと別体のものとして中桟などを介して前示周知の取付手段によりパチンコ機本体に交換可能に取り付けられるものと認められる。
すなわち、本願考案における飾り枠は遊技盤と一体のものとみるべきであるのに対し、引用例考案2における取付枠は前面枠と一体のものであってパチンコ機本体に属するものとみるべきであって、自ずからその機能を異にするものというべきである。
したがって、引用例考案2は、新たな遊技盤による打球の斑飛びという問題を回避することを認識して考案されたものとはいえないし、参加人が主張するように、遊技盤を交換しても誘導レールは交換されず、誘導レールは前面枠に取着された取付枠側にそのまま残され継続的に使用されるものであるから、長年にわたって使用されることとなり、磨耗して汚れが付着したものとなるので、パチンコ球の走行が不安定になって打球の斑飛びが生ずるおそれがあることが考えられる。
そうすると、引用例考案2は、本願考案と同じ目的を有し、かつ同じ作用効果を奏するものとはいえないから、審決の摘示する相違点に係る本願考案の構成は引用例考案2からきわめて容易に考えることができる程度のこととはいえないし、また、前示のとおり引用例1として審決が引用した原明細書は引用例とはなりえないものであるから、相違点に関する審決の判断は誤りである。
取消事由2も理由がある。
3 よって、参加人の本訴請求は理由があるから認容し、訴訟費用の負担について、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 牧野利秋 裁判官 芝田俊文 裁判官 清水節)
平成7年審判第4999号
審決
名古屋市千種区今池三丁目9番21号
請求人 株式会社 三洋物産
愛知県名古屋市北区金城3丁目12番19号 日東エステイトビル4階B 今崎特許事務所
代理人弁理士 今崎一司
平成1年実用新案登録願第103822号「パチンコ機の誘導レール」拒絶査定に対する審判事件(平成2年4月11日出願公開、実開平2-51590)について、次のとおり審決する。
結論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
1. 手続の経緯、本願考案
本願は、昭和60年3月28日の出願に係る実願昭60-45679号を実用新案法第9条第1項で準用する特許法第44条第1項の規定によって平成元年9月4日に分割出願したものである旨の表示がなされた出願であって、その考案の要旨は、平成7年4月7日付け手続補正書による全文補正明細書及び図面の記載からみて、その実用新案登録請求の範囲に記載された次のとおりのものと認める。
「パチンコ機本体に着脱自在に取り付けられ且つ遊技領域の外側表面に固定される飾り枠を備えた遊技盤の前記遊技領域にパチンコ球を誘導する誘導レールにおいて、該誘導レールを少なくとも中央上部よりもやや通過した位置に設けられる衝止部材までの間前記飾り枠に固着して一体化し、その後、その誘導レールを固着した飾り枠を取着手段によって前記遊技盤の表面に取着したことを特徴とするパチンコ機の誘導レール。」
2. 引用例、適法な分割出照でない理由
これに対して、当審において、平成7年11月8日付けで、引用例1である実願昭60-45679号(実開昭61-163682号)の願書に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフイルム、及び引用例2である実公昭55-15883号公報を示して、下記の主旨の拒絶の理由を通知し、期間を指定して請求人の見解を求めた。
「本願考案の分割前の原出願の明細書及び図面には、本願考案の目的及び作用効果については記載されていないから、本願考案は、原出願の明細書及び図面に記載された事項の範囲内を要旨とするものとは認められず、適法な分割出願とは認められないので、その出願日の遡及は認めることはできない。したがって、本願考案は、その原出願としている引用例1及び、分離式パチンコ機について記載されている引用例2の両引用例記載のものから当業者がきわめて容易に考案をすることができたものといえる。」
当審の拒絶理由通知に対する審判請求人の見解は、「本願の原出願には、その明細暑中に本願考案の目的・作用効果が明確に記載されていないことは認めるが、原出願の図面を当業者がみれば、本願考案の目的・作用効果に想到し得ることは自明の事項である。」というものである。
そこで、原出願の願書に添付された図面の記載を検討すると、図面第1図は、本考案実施例を使用したパチンコ機の正面図、第2図は、遊技盤への取付け状態を示す分解斜視図、第3図は、他の実施例を示し遊技盤への取付け状態を示す分解斜図視図であるから、上記第2、3図からみて、本願考案の遊技盤が分離式のパチンコ機であること、及び誘導レールは、飾り枠に一体的に固着形成されていること等は判別し得る。
それ故、原出願の図面からみて、パチンコ機本体に対して、遊技盤及び飾り枠を交換できるということまでは認められるものの、「遊技盤を交換すれば、誘導レールも同時に交換されることとなり、・・・打球の斑飛びという問題は生じない」等の本願考案の目的及び作用効果までが自明とすることはできない。
したがって、当審の拒絶の理由は、依然として解消していないから、本願考案は、原出願の分割出願とは認められず、本願考案の出願日の遡及は、認めることはできない。
3. 対比
本願考案と、原出願の考案即ち引用例1に記載されたものとを対比すると、本願考案が、遊技盤を交換する際にも誘導レールを交換することができると共に、誘導レールの取着作業が簡単であるパチンコ機の誘導レールの提供を目的とし、遊技盤を交換すれば、誘導レールも同時に交換されることとなり、新たな遊技盤による打球の斑飛びという問題が生じない等の作用効果を奏するものであるのに対して、引用例記載のものは、かかる本願考案の目的及び作用効果を有していない点で、両者は、相違する。
4. 当審の判断
しかしながら、上記引用例2には、分離式のパチンコ機において、取付枠に誘導レールを取付けることが記載されそおり、引用例2記載のものも、遊技盤を交換する際には、誘導レールも交換することができ、新たな遊技盤による打球の斑飛びという問題が生じないもの、即ち本願考案と同じ目的を有し且つ同じ作用効果を奏するものといえるから、両者の上記相違点は、当業者が引用例1及び引用例2記載のものから、きわめて容易に考えることができる程度のことといえる。
5. むすび
したがって、本願考案は、上記両引用例1、2に記載されたものに基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたもの、であるから、実用新案法第3条第2項の規定により、実用新案登録を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
平成8年3月12日
審判長特許庁審判官 (略)
特許庁審判官 (略)
特許庁審判官 (略)